INTERVIEW

INTERVIEW
2024.07.29

【第一話】”成長のきっかけをくれた恩人” 富田康仁

富田 康仁|株式会社富田商店

PROFILE

富田 康仁|株式会社富田商店 yasuhito_tomita

富田康仁(とみた・やすひと)1990年愛知県生まれ。北陸大学を経て、2013年よりツエーゲン金沢へ入団。2017年シーズンまで同クラブで活躍し、翌シーズンはアスルクラロ沼津へ移籍。その年の12月現役引退を発表。 引退後は、水産業に身を置き、サラリーマンとして修行を積んだ後、現在は、家業である株式会社富田商店を継ぎ、総売上20億円のグループ会社の3代目として活躍中。また水産に特化した人材会社も設立している。

富田 康仁|株式会社富田商店

PROFILE

富田 康仁|株式会社富田商店 yasuhito_tomita

富田康仁(とみた・やすひと)1990年愛知県生まれ。北陸大学を経て、2013年よりツエーゲン金沢へ入団。2017年シーズンまで同クラブで活躍し、翌シーズンはアスルクラロ沼津へ移籍。その年の12月現役引退を発表。 引退後は、水産業に身を置き、サラリーマンとして修行を積んだ後、現在は、家業である株式会社富田商店を継ぎ、総売上20億円のグループ会社の3代目として活躍中。また水産に特化した人材会社も設立している。

インタビュー:鈴木崇文

話者:富田康仁

【はじめに】

今回インタビューを受けてくれたのは、ツエーゲン金沢、アスルクラロ沼津で活躍され、引退後はサラリーマンになり、そして現在は家業の水産業を営んでいる富田康仁さんです。

プロ選手としての貴重な体験談だけでなく、引退後のキャリア選択や現役時代にどのような準備をしていたのかを掘り下げていきます。

富田さんの人間味あふれるエピソードと共に、彼がどのようにして現在の成功を築いたのか、その秘訣に迫ります。ぜひ、お楽しみください。

「運」で掴み取ったJリーグへの切符

鈴木:

早速ですが、現役時代のことからお話を伺えたらと思いますが、どうして富田さんはプロになれたと思いますか?

自己分析をお聞かせいただけますか?

富田:

運だけですね。運が良かったです。笑

本当にめちゃくちゃ「運」が良かっただけです。

鈴木:

そんなことないはずですよ。笑

ちなみに、具体的にはどういう経緯でプロになったんですか??

富田:

少し長くなってもいいですか??

鈴木:

もちろんです!

富田:

もともと名古屋出身で、中学校は比較的強いチームでした。そこから四日市中央工業に行ったんですが、高校ではスタメンにすらなれず、選手権でもチームはベスト8に進出しましたが、私は全く試合に出ていませんでした。

なので、その時点でプロになるイメージは全くありませんでした。

そんな中、大学を選択する際には後悔ない選択をしたいというのがあったんですね。

元々は関東学院大学や大阪学院大学に行きたいなという思いがあったのですが、北陸大学のサッカー部が強化される、元日本代表の人が監督になり強化されると聞いて、そちらに進学を決めました。

ただ、大学時代もスタメンになれることは少なく、4年の時には就活もしていました。

リクルートやマイナビを使って3社から内定をもらい、東証一部上場の不動産会社で働く予定でした。

鈴木:

そうなんですね。そこからどうやってプロへの道に繋がったのでしょうか?

富田:

そこなんですよ!就職活動が終わり、大学4年の時は思い切りサッカーを楽しむことに決めたことでメンタルが良くなり、プレーの質も向上した気がしていて、総理大臣杯に出場して、すごく良いプレーができたんですよ。

そのあと、ツエーゲン金沢から練習試合の助っ人に来てほしいという話が大学の方に来まして、本来なら授業があって参加できなかったはずなのですが、偶然、授業がなかったので参加させてもらいました。

ただ、その練習試合は人数が足りなかった時用の練習生だったので、試合に出れたのは5分だけで。

その5分で、確か3回くらいしかボールに触っていないんですけど、めちゃくちゃいいプレーが出せたんですよ。

その試合はそれで終わったんですけど、1ヶ月後くらいに僕だけ練習試合に呼んでもらって、その時は45分チャンスをもらえました。

で、その時もめちゃくちゃ調子が良くて、そこでオファーをいただいたっていう流れですね。

あの時に大学の授業が残っていたらプロにはなれていなかったですね!笑

なのでやっぱり僕がプロになれた理由は「運」ですね。

鈴木:

プロになりたいという強い意志が逆にプレッシャーになってしまうこともあると思いますが、その点、富田さんはあんまり緊張とかはなかったんですかね?

富田:

うーん、振り切ってプレーしよう、自分のプレーを自由に楽しもうという気持ちが強くて、プレッシャーはあまり感じていなかったですね。

鈴木:

なるほどです。運の要素もあるとは思いますけど、自分のプレーを出すことに振り切ってたのが、結果として良い方向に出たのかもしれないですね!
ちなみに、プロになるか就職するかで悩むことはありましたか?

富田:

非常に悩みました。当時金沢はJFLだったので、不動産会社に行けば稼げるしと考えましたが、後悔しない選択をするのが僕の信念なので、最終的にサッカーを選びました。

成長のきっかけをくれた先輩の存在

鈴木:

ツエーゲンと沼津で合計6年間Jリーガーとして活躍されましたが、運だけではない何かがあったと思います。

それこそ、うまくいかないことだらけだったと思うのですが、どのようにしてその試練を乗り越えてきたのですか?

富田:

そうですね。まず北陸大学自体、僕が行ったタイミングで強化し始めた大学だったので全然レベルが高くない大学でした。そこからプロの世界に飛び込んだわけで、まず初めにプロの選手のレベルの高さに圧倒されました。

最初の年は特に大変で練習についていくのが精一杯、毎日メンタル的に辛かったです。それこそ練習の時なんかは、失敗したらどうしよう。ボール来ないでって思いながらプレーしていましたね。

それでも運良く早いタイミングでスタメンに抜擢してもらいました。

しかし、デビュー戦がカマタマーレ讃岐だったのですが、対面のアンドレアという選手にフィジカルもテクニックも何一つ通用しなくて、さらに僕の所から失点してしまい、その後はずっとメンバー外で、本当に地獄の一年間でしたね。

紅白戦も試合に出られず練習だけが続く毎日で、悔しさや恥ずかしさ、いろんな感情が混ざり、胃が痛くて夜も眠れないし練習に行きたくないと思う日が多かったですね。

ただ、それでもやるし、やらなきゃいけないという思いで、誰よりも練習に取り組んだ自負はあります。

鈴木:

そうなんですね。紅白戦のメンバー外、あれは本当に気持ち折れそうになりますよね。。

ちなみにその後、どう自分を変化させて行ったんですか?

富田:

2014年に康介さん(太田康介さん※現金沢学院大学監督)が入ってきて、彼から多くのことを学びました。

康介さんとの出会いが大きな転機となり、プロとしての意識を教えてもらいましたね。

それこそ、食事の管理や体のケア、ストレッチの重要性など、当たり前なんですけど、何も知らない僕に細かいことまで指導してもらいました。

鈴木:

具体的にどんなことを教わったのですか?

富田:

例えば、それまでは食事に対して無頓着で、それこそ、キャンプなどでビュッフェ形式の時なんかは、野菜炒めドーン、肉ドーンって感じでとってきていたのですが、康介さんから「そんな食事の取り方で試合出れるわけないだろ」と言われて。

正直、栄養の勉強とかをしたことがなかった僕には何のことを言っているのか分からなかったのですが、食事の食べる順番や、試合時に必要な栄養のことなど基本的なことから教えてもらいました。

恥ずかしいことではあるのですが、プロとしての意識が欠けていましたね。

鈴木:

康介さん(※鈴木もFC町田ゼルビア時代にチームメイトでした。)との関係が富田さんに大きな影響を与えたのですね。

富田:

そうですね。康介さんの存在が大きかったです。2014年は康介さんからのアドバイスのお陰もあり、ほとんどの試合にスタメンで出ることができました。

ちなみに、キャンプの時は康介さんと同じ部屋で、そこでも多くのことを学ばせていただきました。

その中でも特に印象深いエピソードを紹介しますね。

2013年のキャンプ途中までは変わらずメンバー外だったんですよ。

とはいえ、康介さんからの食事やそれ以外のアドバイスのお陰もあってか、練習だったりサブの試合でも良いパフォーマンスを見せていた自信はありました。

ただ、スタメンにはなかなか入れず、フォーメーション練習にも参加できない、なのでキャンプの初めは2013年シーズンと同じ状況でした。

しかし、キャンプの終盤にボランチの選手が次々と怪我をして、急遽スタメンで試合に出ることになりました。

鈴木:

それが転機となったのですね。

富田:

はい、その試合で良いパフォーマンスを見せることができ、チームも勝利し、そのまま開幕戦にもスタメンで出場して、このシーズンはほとんどの試合でスタメンで試合に出ることができました。

鈴木:

そうだったんですね。確かにここだけ聞くと運がすごく良いように聞こえますね。

けど、それこそ前年から試合にあまり絡めない状況の中で、結構な焦りやプレッシャー、そして気持ち的に苦しいことも多い状態だったんじゃないですか?

富田:

そうですね。プレッシャーや焦りは確かにありました。

それこそ、キャンプ中は結構悩んでいて、同部屋の康介さんに相談させてもらうこともありましたね。

スタメンで出ることが決まった前日なんかも、明日結果を出さなければというプレッシャーを感じていたのですが、

「やるしかねーだろ。失うものないんだし。」

っていう康介さんの言葉がきっかけで、吹っ切れたというか、そりゃそうだよなという気持ちになり、思いっきりプレーできましたね。

鈴木:

そうだったんですね。康介さんの力絶大だなー。

けど、追い詰められた状態の中でも素直に先輩のアドバイスを聞き、実行している所が、富田さんが6年もの期間サッカー選手を続けられた理由があるんじゃないかなと思いますね。

先を見据えたアクション

鈴木
次の質問に移らせていただきます。6年間プロサッカー選手としてプレーされていましたが、セカンドキャリアについて、具体的に何か取り組んでいたことはありますか?

富田
ええ、あんまり言っていいのは分かりませんが、実は結構やってました。

サッカーだけの人生じゃないことは分かっていましたし、J1まで行って日本代表になれる実力が自分にないのも分かっていました。

だから、どこかでサッカーを離れなければならないと感じていて、それこそ、引退後にコーチになるとか、指導者になる道もありとは思いますが、それも上の先輩たちが数多くいる中で飽和状態だと分かっていました。

お金を稼がないといけないし、家庭を持つことを考えたら、自分でお金を稼ぐ力が必要だと思っていました。

鈴木
そうですよね。具体的にはどんなことをしていましたか?

富田
まず、Jリーグ選手会の補助金制度を利用してファイナンシャルプランナーの資格を取ったり、ネットビジネス、具体的には「せどり」をやっていました。

実家が卸業をやっていたので、そのノウハウを活かして、商品を安く仕入れてネットで高く売るビジネスをして、月数万円を稼いだり、それこそ、投資なんかもしていました。

鈴木:
そうなんですね。結構いろんなことにチャレンジされていたんですね。

ちなみに富田さんは、競技以外のことに色々チャレンジされていたと思うのですが、一旦ご自身のことを置いておいて、選手が競技以外のことに取り組むことに対して、どうお考えですか?

富田:
そうですね。サッカーに専念しろという意見はあるかなと思いますし、競技での活躍を応援してくれたりサポートしてくれる人がたくさんいることは分かっています。

ただ、その人たちが引退後に面倒を見てくれるかというと、そういうわけではない。

それこそ人生100年時代を言われる中で、引退後の方が圧倒的に長いと考えた時にあれが責任持つのと思うんですよ。

自分で責任を取らなければいけないと考えた時に、現役のうちに準備をしていくのはとても大事なことだと思います。

鈴木:
そうですよね。誰かが面倒を見てくれるわけではない。

自分で責任を取らなければいけないと考えた時に、何かしらのアクションを起こしておくことはとても大切ですよね。

ちなみにですが、現役の時に行っていたことが競技にプラスになっていた印象はありますか?


というのも、サッカー以外に取り組んでいることが競技にプラスになることがあれば、積極的に選手にも進めていけるんじゃないかなと思っておりまして。

富田
難しいところですよね。

僕のやっていたこと、直接次のキャリアに繋がらないことをやるくらいなら、もっと競技に集中できたんじゃないかなとも思っています。

鈴木

確かに、限られた人しかなれない職業、自分が小さい頃から憧れていた職に就けていたわけですからね。

そこを突き詰めておくべきだったというのも間違いなく大事なことですよね。

ただ、その後の人生を考えると何かしらアクションを起こしておく必要性も感じている。

難しいところですよね。

ちなみに、どんなことだったらやっておけばよかったな、競技にも活きてくるなと思いますか?

富田
そうですね。

ありきたりなことかもしれませんが、まずはチームのスポンサーさんのところに訪問させてもらうだけでもプラスになると思います。

引退後にはなかなか会うのが難しい企業の経営者の方などに挨拶に行ったり、話を聞かせてもらったり、時には営業に同行させてもらうことって、現役の間にしかできないし、それがチームにも自分にもプラスになるはずです。

鈴木
確かに現役の間にしかできないことですし、それが競技にも役立ったかもしれませんね。

富田:
そうですね。サッカーに関わることなら、特にチームにも自分にもプラスになると思います。

スポンサーさんとは引退後に繋がるのは難しいですから、現役のうちにしっかり関係を築いておくべきです。

競技最優先ではありますけど、将来を見据えた活動も絶対に必要です。

鈴木
確かにそうですよね。現役時代がゴールデンタイムですね。

第一話後記

初対面ではありましたが最初の挨拶から人柄が現れており、とても素直で、だけど負けん気の強い方だろうなという印象を持ちました。

インタビューの中でも成長意欲と先輩の声を素直に聞ける素直さが現れていたかと思います。

第二話では、キャリアチェンジの際の心情や今後のビジョンなどをお話しいただきましたので、ぜひご一読ください。